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紫式部文学賞 - 受賞作品

印刷ページ表示 更新日:2020年8月7日更新 <外部リンク>

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第30回紫式部文学賞

受賞作品:『夢見る帝国図書館』

著者: 中島 京子 (なかじま きょうこ) さん

夢見る帝国図書館

講評(鈴木 貞美 選考委員長)

 2020年の受賞作も、紫式部文学賞ならではの作品に決まりました。中島京子さんの『夢見る帝国図書館』(文藝春秋)です。

 語り手の「わたし」は一五年前、セミプロ作家だった頃、上野公園で知りあった喜和子さんから「帝国図書館が宿している記憶を小説にしたい」と打ち明けられた。なぜ、そんな構想を抱いたのか、不信に思いながら、「わたし」は、そのテーマに引かれてゆく。図書館が宿している創設期の人々の苦労、露伴、一葉、菊池寛、芥川龍之介、宮沢賢治らが訪れた思い出や見舞われた事件の数々、他方、喜和子さんに、小説の構想を吹き込んだ謎の人物の姿が次第に浮かびあがってゆく。図書館と上野界隈の歴史をめぐるファンタジーとミステリーが交互に展開し、最後も見事に決まっています。

 よく研究され、工夫された、読み味豊かな抜群の中編小説です

作品紹介と講評(川上 弘美 選考委員)

  『夢見る帝国図書館』という題が、いい。語り手「わたし」は、小説家の卵。上野公園のベンチで、喜和子さんという不思議な年上の女性と知り合う。まったくの見知らぬどうしだった語り手と喜和子さんの気持ちが近づいてゆく導入から、すぐさま引きこまれてしまう。「上野の図書館が主人公の小説」を書いてみたらと、喜和子さんに提案された語り手は、日本という国の、また喜和子さんという人間の歴史に、深く潜航してゆくことになるのだ。

 作者は上野の図書館についての実に深い知識を縦糸として、さまざまな事件や人々を豊かに描いてゆくのだが、瞠目すべきは、知識をそのまま並行に紙の上に移すのではなく、まず自家薬籠中のものとしたのちに、さらに発酵させ、新しい発見をおこない、旨味を加えているところである。図書館が意識を持つという楽しくも大胆な発想のうえに、ミステリーの要素も加え、小説という器の豊饒さを余すところなく見せてくれる作品なのである。

受賞の言葉

 お報せをいただき、たいへん光栄に思っております。

 何年か前に、紫式部の邸があったところに建てられたという京都の蘆山寺を訪ねたことがあります。桔梗の花が凛として咲いていて、静謐で美しいお寺でした。

 『夢見る帝国図書館』という小説には、明治以降の日本語文学を作ってきた作家たちが多く登場します。この小説を書きながら、自分が現在、物書きを生業とするにあたって、先達の仕事に負うところの大きさを考えずにはいられませんでした。そしてまた、それらの作家たちを遡っていった先には、平安朝の文学があり、紫式部に行き当たります。紫式部という偉大な女性作家は、日本語を使って小説を書いていて、しかも女である身にとって、いつもとても誇らしい存在です。

 このたびの受賞は、書き続けていいと、選考委員の先生方はじめ、諸先輩から励ましをいただいたように感じています。

 ほんとうにありがとうございました。

中島 京子

 

著者略歴

1964年東京都生まれ。東京女子大学卒業。東京在住。

出版社勤務を経て、2003年『FUTON』で小説家デビュー。

2010年『小さいおうち』で直木賞受賞。

2014年『妻が椎茸だったころ』で泉鏡花文学賞受賞。

2015年『かたづの!』で河合隼雄物語賞、歴史時代作家クラブ賞作品賞、柴田錬三郎賞を受賞。

同年『長いお別れ』で中央公論文芸賞受賞。

2016年、同作で日本医療小説大賞受賞。近著に『樽とタタン』『キッドの運命』など。

これまでの受賞作品

受賞作品一覧
開催回 受賞作品 発行者 受賞者
第1回 『式子内親王伝
 -面影びとは法然-』
朝日新聞社 石丸 晶子
第2回 『きらきらひかる』 新潮社 江國 香織
第3回 『十六夜橋』 径書房 石牟礼 道子
第4回 『淀川にちかい町から』 講談社 岩阪 恵子
第5回 『アムリタ』 ベネッセコーポレーション 吉本 ばなな
第6回 『夫の始末』 講談社 田中 澄江
第7回 『蟹女』 文藝春秋 村田 喜代子
第8回 『齋藤史全歌集』 大和書房 齋藤 史
第9回 『神様』 中央公論新社 川上 弘美
第10回 『薬子の京』 講談社 三枝 和子
第11回 『釋迢空ノート』 岩波書店 富岡 多惠子
第12回 『歩く』 青磁社 河野 裕子
第13回 『浦安うた日記』 作品社 大庭 みな子
第14回 『愛する源氏物語』 文藝春秋 俵 万智
第15回 『ナラ・レポート』 文藝春秋 津島 佑子
第16回 『沼地のある森を抜けて』 新潮社 梨木 香歩
第17回 『歌説話の世界』 講談社 馬場 あき子
第18回 『とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起』 講談社 伊藤 比呂美
第19回 『女神記』 角川書店 桐野 夏生
第20回 『ヘヴン』 講談社 川上 未映子
第21回 『尼僧とキューピッドの弓』 講談社 多和田 葉子
第22回 『評伝 野上彌生子
-迷路を抜けて森へ』
新潮社 岩橋 邦枝
第23回 『東京プリズン』 河出書房新社 赤坂  真理
第24回 『『青鞜』の冒険
 女が集まって雑誌をつくるということ』
平凡社 森まゆみ
第25回 『晩鐘』 文藝春秋 佐藤 愛子
第26回 『戯れ言の自由』 思潮社 平田 俊子
第27回 『浮遊霊ブラジル』 文藝春秋 津村 記久子
第28回 『えぴすとれー』 本阿弥書店 水原 紫苑
第29回 『パンと野いちご 戦火のセルビア、食物の記憶 勁草書房 山崎 佳代子
第30回 『夢見る帝国図書館』 文藝春秋 中島 京子