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紫式部文学賞 - 受賞作品

印刷ページ表示 更新日:2021年10月14日更新 <外部リンク>

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第31回紫式部文学賞

受賞作品:『組曲 わすれこうじ』

組曲 わすれこうじ 書影

著者: 黒田 夏子 (くろだ なつこ) さん

作品紹介と講評(鈴木 貞美 選考委員長)

 黒田夏子『組曲 わすれこうじ』は、横書きだが、カタカナを用いず、「仏壇」を「仏壇」、「塗り絵」を「塗り絵」と呼ばす、ラクダ、トンボ、桜など動植物の名称も、多くの和語で軟らかく説明される。これは速読を拒む。

 早くに両親を失った語り手が、戦後、急速に血縁の結びつきが薄れてゆくなか、海岸の自家の別荘で、「二代まえの血統」に引きとられ、「養育がかり」と六人ほどで暮らした幼い日々の記憶を辿るが、いまは遠くへだたった思い出は旧家に遺された物や家具、幼い日々の遊びなど、テーマごとに輪郭がくっきりしてきたり、捩れたり、他者との関係の裏側が見えてきたり、連想や反省に満ちて迷路の中を行きはぐれて途絶えがち。それゆえ組曲。この全体の構成は要約を拒んでいる。詩にも似て、言葉のワザを楽しむ作品なのだ。

 ふつうなら子守と呼ぶところを「養育がかり」、飼い犬を「愛玩獣」などと役割で呼び、一人称「私」を用いず、場面場面で「成育途上者」「観察者」「想起者」などと規定し、記憶想起の唐草模様のなかにはたらく自意識が刻み出される。このようにして語り手の自己形成の過程がほの見えてくる。和語と漢語の使い分けは日本語の特徴の一つだが、この独自の組み合わせによる語り口は比類がない。日本の文芸ならではの達成である。

受賞の言葉

 このたびは紫式部文学賞という,とても独特な賞を授けていただきまして,たいへん光栄に存じております.

 文学賞には,文学の大先輩のお名前を冠したものも多いのですが,ほとんどが近代現代の作家であって,このように千年前などという飛びぬけて古い時代の先達のものはほかに聞きません.それで,なんだか急に大きな文学史の流れの中に呼び込んでいただけたような気分で,日を追うにつれだんだんにうれしさが増してきているところでございます.

 この賞は,いわゆる小説だけではなく,詩歌実録評論随想などを広く含めるという点でもあまり例のないもので,ですから今回選んでいただけたのは非常に稀な幸運というべきで,作品を読んでくださり推薦してくださったかたがたにはほんとうに心から感謝せずにはいられません.

 早稲田文学新人賞からで九年,まことにのろのろとではありますがなんとか根気よく書き継いでまいりました老人へのお励ましと考えまして,そのご恩報じにも,まだもうすこしこの道を歩き続けてまいりたいと希っております.ありがとうございました.

黒田夏子(©新潮社)

著者略歴

作家.1937年東京生まれ.1959年早稲田大学教育学部国語国文学科卒業.在学中に同人誌「砂城」創刊に参加,同誌に「具現」「虚炎」を連載.卒業後は教員・事務員・校正者などとして働きながら執筆を続け,1963年「毬」で第63回読売短編小説賞.1970年同人誌終刊後は発表の場がないまま「感受体のおどり350番」「a bさんご(280枚版)」などを完成.2010年『累成体明寂』審美社刊.2012年「a bさんご(100枚版)」で応募して第24回早稲田文学新人賞,2013年同作で第148回芥川賞.2020年『組曲 わすれこうじ』新潮社刊,2021年同作で第31回紫式部文学賞.

これまでの受賞作品

受賞作品一覧
開催回 受賞作品 発行者 受賞者
第1回 『式子内親王伝
 -面影びとは法然-』
朝日新聞社 石丸 晶子
第2回 『きらきらひかる』 新潮社 江國 香織
第3回 『十六夜橋』 径書房 石牟礼 道子
第4回 『淀川にちかい町から』 講談社 岩阪 恵子
第5回 『アムリタ』 ベネッセコーポレーション 吉本 ばなな
第6回 『夫の始末』 講談社 田中 澄江
第7回 『蟹女』 文藝春秋 村田 喜代子
第8回 『齋藤史全歌集』 大和書房 齋藤 史
第9回 『神様』 中央公論新社 川上 弘美
第10回 『薬子の京』 講談社 三枝 和子
第11回 『釋迢空ノート』 岩波書店 富岡 多惠子
第12回 『歩く』 青磁社 河野 裕子
第13回 『浦安うた日記』 作品社 大庭 みな子
第14回 『愛する源氏物語』 文藝春秋 俵 万智
第15回 『ナラ・レポート』 文藝春秋 津島 佑子
第16回 『沼地のある森を抜けて』 新潮社 梨木 香歩
第17回 『歌説話の世界』 講談社 馬場 あき子
第18回 『とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起』 講談社 伊藤 比呂美
第19回 『女神記』 角川書店 桐野 夏生
第20回 『ヘヴン』 講談社 川上 未映子
第21回 『尼僧とキューピッドの弓』 講談社 多和田 葉子
第22回 『評伝 野上彌生子
-迷路を抜けて森へ』
新潮社 岩橋 邦枝
第23回 『東京プリズン』 河出書房新社 赤坂  真理
第24回 『『青鞜』の冒険
 女が集まって雑誌をつくるということ』
平凡社 森まゆみ
第25回 『晩鐘』 文藝春秋 佐藤 愛子
第26回 『戯れ言の自由』 思潮社 平田 俊子
第27回 『浮遊霊ブラジル』 文藝春秋 津村 記久子
第28回 『えぴすとれー』 本阿弥書店 水原 紫苑
第29回 『パンと野いちご 戦火のセルビア、食物の記憶 勁草書房 山崎 佳代子
第30回 『夢見る帝国図書館』 文藝春秋 中島 京子
第31回 『組曲 わすれこうじ』 新潮社 黒田 夏子