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紫式部文学賞 - 受賞作品

印刷ページ表示 更新日:2023年10月5日更新 <外部リンク>

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第33回紫式部文学賞

受賞作品:『イコ    トラベリング    1948ー』

いこ

著者: 角野 栄子 (かどの えいこ) さん

作品紹介と講評(鈴木 貞美 選考委員長)

    童話作家・翻訳者として国際的に活躍してきた著者の若き日の自叙伝。第二次世界大戦後、東京の下町で育った少女(愛称・イコ)が大学を卒業し、海外の書籍を扱う書店に就職、ブラジルに旅発つまでが軽やかなタッチで描かれてゆく。


    連合軍の占領下、自由に目覚めてゆく少女時代。中学で英語を習いはじめて、現在進行形に出会った驚きが全編に弾む。


    自分から進むこと、心が惹かれたら。文化の先端をゆく街に憧れ、親に許される時間内で行ってみる。ちょっとした冒険の重なりが彼女の行く先ざきの扉を開ける。ワンダー・ランドを行くように。


    アルバイト先の古書店でまかされたショウウインドの飾りつけの仕事から、就職口が開く。中学、高校で仲良くなった友人たちには、降ってわいたように、アメリカにゆく道がひらける。自分には、日本人の移民の国、ブラジルが待っていた。


    この若き日の自叙伝は、太平洋をサンパウロへ向かう船上の場面で閉じる。読み終わって、もう一度ページを開いたら、そこにはなんと、その三年後、大西洋をリオデジャネイロからスペインに向かう船上で、心を弾ませている彼女がいた。

作品紹介と講評(村田 喜代子 選考委員)

    「紫式部文学賞」始まって以来、異色の作品の受賞だろう。表紙をひと目見て驚いた。漫画家・今日マチ子の描く、赤い服を着て旅行カバンを提げた少女の颯爽とした姿。作者の角野栄子は『魔女の宅急便』で知られた児童文学作家だ。日本が戦争に敗れて三年目、作者の投影とおぼしきイコが十三歳の齢から、この少女小説は始まる。先年まで使用禁止だった敵国語がペラペラの中学教師。ずるい! ずるい! と言いつつ自分たちも占領国アメリカに憧れ、イコは「キャロル」、女友達は「クララ」男友達は「チャールズ」と呼び合って喜んだ。こんな開けっぴろげの戦後史は読んだことがない。主人公が少女で、そしてこの性格、独立精神ゆえにこそ、二十二歳で単身ブラジルへ出奔するラストまで、一気に読了させられた。特攻の若者を死なせ、原爆を浴びた敗戦国の苦さは、ただ明るく書けるわけではない。その題材を息も切らさず、老女の尻尾を隠して軽快に書きおおせた。愚痴なし、懺悔なし、抜き手を切って戦後史を泳ぎ抜いた角野栄子、いや……イコだった。

受賞の言葉

    この度は「紫式部文学賞」にお選びいただきまして、ありがとうございます。心から感謝申し上げます。


    思いがけない受賞のお知らせに、はじめは戸惑い、畏れ多い気持ちで一杯でした。でも、紫式部の「めぐりあひて みしやそれとも わかぬまに……」という歌が幼少期の記憶から浮かびあがってくると、懐かしさとともに喜びがこみあげてきました。お正月、家族とのかるた取りでは、「むすめふさほせ」を逃してはならじと、真剣! 遊びに夢中になりながら、和歌の言葉の響きにうっとりとしたものです。


    歴代の受賞者を拝見しますと、私は飛び抜けて高齢です。また私は紫式部のようなラブストーリーも書いておりません。多くは子どもたちのための本ですが、物語を楽しんだ子どもたちが、大人への橋を渡ってからも、読書を喜びとしてほしい。そんな願いを込めて、できる限り書き続けてまいりたいと思っております。

角野様

    ©️Eiko Kadono Office

著者略歴

東京・深川生まれ。神奈川・鎌倉市在住。大学卒業後、出版社勤務を経てブラジルに2年間滞在。その体験をもとに描いた『ルイジンニョ少年 ブラジルをたずねて』で、1970年作家デビュー。
代表作『魔女の宅急便』は舞台化・アニメーション・実写映画化され、野間児童文芸賞、小学館文学賞等受賞多数。その他『アッチ・コッチ・ソッチの小さなおばけ』シリーズ、『ズボン船長さんの話』、『イコ トラベリング1948−』等作品多数。
2018年に児童文学の「小さなノーベル賞」といわれる国際アンデルセン賞作家賞を受賞。
2023年に「魔法の文学館(江戸川区角野栄子児童文学館)」が開館予定。

これまでの受賞作品

受賞作品一覧
開催回 受賞作品 発行者 受賞者
第1回 『式子内親王伝
 -面影びとは法然-』
朝日新聞社 石丸 晶子
第2回 『きらきらひかる』 新潮社 江國 香織
第3回 『十六夜橋』 径書房 石牟礼 道子
第4回 『淀川にちかい町から』 講談社 岩阪 恵子
第5回 『アムリタ』 ベネッセコーポレーション 吉本 ばなな
第6回 『夫の始末』 講談社 田中 澄江
第7回 『蟹女』 文藝春秋 村田 喜代子
第8回 『齋藤史全歌集』 大和書房 齋藤 史
第9回 『神様』 中央公論新社 川上 弘美
第10回 『薬子の京』 講談社 三枝 和子
第11回 『釋迢空ノート』 岩波書店 富岡 多惠子
第12回 『歩く』 青磁社 河野 裕子
第13回 『浦安うた日記』 作品社 大庭 みな子
第14回 『愛する源氏物語』 文藝春秋 俵 万智
第15回 『ナラ・レポート』 文藝春秋 津島 佑子
第16回 『沼地のある森を抜けて』 新潮社 梨木 香歩
第17回 『歌説話の世界』 講談社 馬場 あき子
第18回 『とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起』 講談社 伊藤 比呂美
第19回 『女神記』 角川書店 桐野 夏生
第20回 『ヘヴン』 講談社 川上 未映子
第21回 『尼僧とキューピッドの弓』 講談社 多和田 葉子
第22回 『評伝 野上彌生子
-迷路を抜けて森へ』
新潮社 岩橋 邦枝
第23回 『東京プリズン』 河出書房新社 赤坂  真理
第24回 『『青鞜』の冒険
 女が集まって雑誌をつくるということ』
平凡社 森まゆみ
第25回 『晩鐘』 文藝春秋 佐藤 愛子
第26回 『戯れ言の自由』 思潮社 平田 俊子
第27回 『浮遊霊ブラジル』 文藝春秋 津村 記久子
第28回 『えぴすとれー』 本阿弥書店 水原 紫苑
第29回 『パンと野いちご 戦火のセルビア、食物の記憶 勁草書房 山崎 佳代子
第30回 『夢見る帝国図書館』 文藝春秋 中島 京子
第31回 『組曲 わすれこうじ』 新潮社 黒田 夏子
第32回 『夕暮れに夜明けの歌を 文学を探しにロシアに行く』 イースト・プレス 奈倉 有里
第33回 『イコ    トラベリング    1948ー』 角川書店 角野    栄子

 


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