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第31回紫式部文学賞 『組曲 わすれこうじ』

印刷ページ表示 更新日:2022年10月6日更新 <外部リンク>

第31回紫式部文学賞

受賞作品:『組曲 わすれこうじ』

著者: 黒田 夏子 (くろだ なつこ) さん

作品紹介と講評(鈴木 貞美 選考委員長)

 黒田夏子『組曲 わすれこうじ』は、横書きだが、カタカナを用いず、「仏壇」を「仏壇」、「塗り絵」を「塗り絵」と呼ばす、ラクダ、トンボ、桜など動植物の名称も、多くの和語で軟らかく説明される。これは速読を拒む。

 早くに両親を失った語り手が、戦後、急速に血縁の結びつきが薄れてゆくなか、海岸の自家の別荘で、「二代まえの血統」に引きとられ、「養育がかり」と六人ほどで暮らした幼い日々の記憶を辿るが、いまは遠くへだたった思い出は旧家に遺された物や家具、幼い日々の遊びなど、テーマごとに輪郭がくっきりしてきたり、捩れたり、他者との関係の裏側が見えてきたり、連想や反省に満ちて迷路の中を行きはぐれて途絶えがち。それゆえ組曲。この全体の構成は要約を拒んでいる。詩にも似て、言葉のワザを楽しむ作品なのだ。

 ふつうなら子守と呼ぶところを「養育がかり」、飼い犬を「愛玩獣」などと役割で呼び、一人称「私」を用いず、場面場面で「成育途上者」「観察者」「想起者」などと規定し、記憶想起の唐草模様のなかにはたらく自意識が刻み出される。このようにして語り手の自己形成の過程がほの見えてくる。和語と漢語の使い分けは日本語の特徴の一つだが、この独自の組み合わせによる語り口は比類がない。日本の文芸ならではの達成である。

受賞の言葉

 このたびは紫式部文学賞という,とても独特な賞を授けていただきまして,たいへん光栄に存じております.

 文学賞には,文学の大先輩のお名前を冠したものも多いのですが,ほとんどが近代現代の作家であって,このように千年前などという飛びぬけて古い時代の先達のものはほかに聞きません.それで,なんだか急に大きな文学史の流れの中に呼び込んでいただけたような気分で,日を追うにつれだんだんにうれしさが増してきているところでございます.

 この賞は,いわゆる小説だけではなく,詩歌実録評論随想などを広く含めるという点でもあまり例のないもので,ですから今回選んでいただけたのは非常に稀な幸運というべきで,作品を読んでくださり推薦してくださったかたがたにはほんとうに心から感謝せずにはいられません.

 早稲田文学新人賞からで九年,まことにのろのろとではありますがなんとか根気よく書き継いでまいりました老人へのお励ましと考えまして,そのご恩報じにも,まだもうすこしこの道を歩き続けてまいりたいと希っております.ありがとうございました.

著者略歴

作家.1937年東京生まれ.1959年早稲田大学教育学部国語国文学科卒業.在学中に同人誌「砂城」創刊に参加,同誌に「具現」「虚炎」を連載.卒業後は教員・事務員・校正者などとして働きながら執筆を続け,1963年「毬」で第63回読売短編小説賞.1970年同人誌終刊後は発表の場がないまま「感受体のおどり350番」「a bさんご(280枚版)」などを完成.2010年『累成体明寂』審美社刊.2012年「a bさんご(100枚版)」で応募して第24回早稲田文学新人賞,2013年同作で第148回芥川賞.2020年『組曲 わすれこうじ』新潮社刊,2021年同作で第31回紫式部文学賞.


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