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このたび,紫式部市民文化賞を授与いただき大変光栄に思います。
ドイツ南部のアルプス地域を訪れると,多くの建物に色鮮やかな絵が描かれているのに気づきます。Lüftlmalerei(リュフトル画)と呼ばれている外壁画で,窓や戸口周りの装飾模様をはじめ,聖母マリアやキリスト像,カトリックの聖人,聖書の場面,伝統的な生活風景などが題材になっています。画は18世紀中頃に描かれ始め,地域に特有の芸術文化として継承されてきています。
初めてこの画に出会ったのは,40年以上も前にミュンヘンに住んでいた時でした。日本では見ないこの異文化に強く惹かれ,調査や資料収集を繰り返してきました。
本書では,リュフトル画の歴史,題材,主な絵師や技法を概説すると共に,アルペン街道沿いの集落を西から東へ辿りながら,古い作品を中心に紹介しています。本書がこの絵画文化に興味を持ってもらえるきっかけになれば嬉しい限りです。
【著者略歴】
宮崎 周子
1951年 1月 北海道苫小牧市生まれ
1969年 3月 北海道苫小牧東高等学校卒業
1971年 3月 光華女子短期大学家政科卒業
4月 大阪医科大学庶務課勤務(1974年8月まで)
1981年 10月 ミュンヘン市滞在 (1983年1月まで)
1985年 4月 図書館情報大学図書館情報学部(現 筑波大学)
3年次編入学,ドイツ語学小野寺和夫教授に師事
1987年 3月 同上卒業
2011年 11月 『オーバーバイエルンのリュフトル画』(訳本制作)
宮崎 健創
1948年 6月 兵庫県多可郡生まれ
1967年 3月 兵庫県立西脇高等学校卒業
1971年 3月 京都大学工学部卒業
1976年 3月 同大学大学院工学研究科博士課程修了
5月 通産省工技院 電子技術総合研究所研究員
1981年 10月 マックス・プランク研究所客員研究員(1983年1月まで)
1989年 6月 電子技術総合研究所レーザー研究室長
1997年 3月 京都大学エネルギー理工学研究所教授
2013年 3月 定年退職・京都大学名誉教授
宮崎周子さんと宮崎健創さんの『ドイツアルプスのリュフトル画』は、ユニークな研究です。ドイツ、バイエルン州のアルプス地域だけに見られる、民家や教会の外壁に描かれた、色彩豊かなリュフトル画。日本ではほとんど知られていないその歴史、代表的な絵師、技法を紹介するとともに、アルペン街道沿いの集落に保存されているリュフトル画を自分たちの足で訪ねて、写真で詳しく紹介していきます。その数は160以上。著者のガイドで読者も一緒に旅をしているような、楽しい紀行としても読めます。40年以上前の出会いから、何度もドイツを訪ねて書きあげたリュフトル画愛あふれる1冊は、紫式部市民文化賞にふさわしい作品として、高く評価できます。