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このたび、紫式部市民文化賞ユース賞という素晴らしい賞に選出いただき、大変光栄に思います。受賞の知らせを聞いたときは、嬉しさよりも驚きでいっぱいでした。画面に向かい合っているときは自分の中にある考えや、思いや、迷いを言葉にしているだけで、それが誰かに届くという実感があまり湧いていませんでした。しかし、こうして賞として形になり、読んでくださった方がいることを知り、書くことの意味と喜びを改めて感じています。幼少のころから本が大好きで、中学のころから執筆を始め、いくつもの物語と苦楽を共にしてきましたが、ようやく創作者としての第一歩を踏み出せたような気がします。まだまだ表現も語彙も拙く、学ぶべきことばかりですが、これからも人の心に残るような素敵な小説を、私自身が楽しみながら書いていきたいと思います。本当にありがとうございます。
【著者略歴】
2007年生まれ。
立命館宇治高等学校在学中。文芸部所属。
ビル群の間の路地を通り抜けたところにある依頼料理屋四島。そこは作った人の持ち物から料理を再現してくれる不思議な店である。永井未来は母の形見のハンカチで、母の肉じゃがの再現を四島に依頼する。 店主の四島は、形見から思い出を読みとって肉じゃがを作り始める。料理の再現をめぐる物語は、マンガやドラマにもよくあるが、本作は永井未来が母の「想い」を追体験するところに力点を置いている。ただなつかしい母の味が再現されるだけではなく、忙しさに追われて忘れていた亡き母の気持ちをありありと感じることができて、永井未来は自信も回復する。不思議さを媒介にして心の成長がていねいに描かれているところが本作の魅力となっている。