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この度は選出していただきありがとうございました。
私はアリジゴクという昆虫の生態・行動を研究してきた関係上、オーストラリアで研究を行う機会を得ることができました。今から30数年前の話であります。滞在先はアーミデールという小さな地方都市にある大学でした。その大学には学生らが暮らすカレッジ(学寮)がいくつかあり、そのうち最も格式高くまた様々な伝統的行事の残っているカレッジに半年間滞在しました。地方都市ならではの豊かな自然と明るく素朴な人々との交流は今でも私の心に残っています。
その後も幾度かオーストラリアを訪れましたが、ここに綴った最初の思い出が私には最も印象が深いものがあります。今回、宇治市が市民向けに企画されている本事業に応募することで、自分の心に残ったさまざまな事柄を回想してみました。老人の昔語りではありますが、一昔前のかの地の人と自然の一断面を一個人の目から記述しました。
【著者略歴】
1947年 大阪市生まれ
京都大学農学部農林生物学科卒業
京都大学大学院農学研究科博士課程修了
京都教育大学理学科教授を経て、
現在、京都教育大学名誉教授、京都市青少年科学センター学術顧問
本作品は、今から30数年前に昆虫研究のために訪れたオーストラリアでの約半年間にわたる回想録ですが、当時の日記やフィールドノート、写真などから掘り起こされた内容は、まるで現在進行形で起きている出来事のように、生き生きと描かれています。現地での多岐にわたる体験がテンポ良く展開されており、一つ一つのエピソードに引き込まれ、楽しく読み進めることができる作品です。とりわけ、現地の歴史や文化に関する考察・評価や、多くの人々との心温まる交流、研究旅行中の様々なハプニングなどが、時に自虐的に、あるいはユーモアや皮肉を交えながら丁寧に描かれ、心揺さぶられる異文化体験記であり、本賞に相応しい作品として高く評価するものです。