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北原白秋は「童は神の愛児である」などと述べ童謡運動の中心理念、「童心」に「詩胎の発素」を見た。
私は20歳くらいに短歌を始めて13年ほど続けてきたことになる。学生の頃は歌が溢れるようにのびのび詠めていた。しかし、働き始めてからは日常に忙殺され、所属の結社誌の締切に合わせて無理やり作歌するばかり。自分で自分の歌が作意的に感じて嫌だった。
そんな私も令和元年に父となった。それからは意識的に我が子のことばかり詠み続けた。白秋と自分を同化するわけではないが、常に真新しい目で世界と接する子どもの言動、その子どもを見る目を通して私の日常(当然、歌)も詩的に創造されていったように思う。そして「葉の上の露」30首ができた。
受賞にあたり、妻、両親、祖母、短歌仲間、そして選考委員の先生方に深く感謝申し上げます。そして何より、ありがとう〈ゆっちゃん〉。いつまで〈ゆっちゃん〉の歌を詠むことができるだろう。嫌がるまで、いや、嫌がってもこっそり詠み続けたい・・・
【著者略歴】
1989(平成元)年9月2日京都府城陽市に生まれる
2008年 京都府立東宇治高等学校 卒業
2012年 佛教大学文学部人文学科日本語日本文学コース 卒業
2014年 滋賀大学大学院教育学研究科教科教育専攻国語教育専修 修了
2014年~ 京都府立東舞鶴高等学校浮島分校勤務
2017年~ 京都府立洛西高等学校勤務
2020年~現在 京都府立東宇治高等学校勤務
2010年 「原型」歌人会入会
2012年 原型新人賞受賞
2017年 第31回全国短歌フォーラムin塩尻 優秀作品
2018年 「塔」短歌会入会
歌集『言譯と鼻唄と時々くしゃみ』(2012年、私版)
歩き始めたばかりの子と共に生きる日々を詠んだ短歌30首。子どもの動作が新しい時空(世界)を開いていくさまが初々しい。
歩けるを顔とあんよで喜んで子は寝る前に寝るまで歩く
寝返っていくのはシーツの端っこの「ひんやり」がまだ残ったところ
ギフチョウは羽化したろうか子の跳ねるこころは春の日の溜まる場所
「寝るまで歩く」の得意そうでちょっとおかしい表情、「ひんやり」へ寝がえるという存在感、ギフチョウの羽化を連想させる跳ねる動作。以上のような表現は、この作者が現代の短歌の高いレベルに至っていることを示す。さらに言えば、子育てが親育てでもあることを詠んだ30首だ。