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この度は紫式部市民文化賞奨励賞をいただき誠に有り難く御礼申し上げます。私の未熟な作品を選んでくださったことに心から感謝申し上げます。
私が詩を書き始めたのは、六年ほど前でした。母が病気で要介護となり手術と入院をきっかけに、両親二人きりの生活も難しくなり退院と同時に宇治市の我家で同居、在宅介護の生活を始めたのでした。介護は想像以上に過酷で残酷でした。その様子を心配した詩人でもある友人が、言葉が救ってくれることもある、今の気持ちを詩にしてごらんと、誘ってくれました。そうして毎月一度の詩の会に参加しながらまとめたのが「詩集 ちゅうぶらりん」です。母は昨秋に亡くなり、ちょうど一周忌の命日が奨励賞受賞の記者発表の日でした。母が「世話かけてごめんな、これで堪忍してや」と巡り合わせてくれた気がします。これまで私の稚拙な作品をご指導くださった詩の会の井上良子先生ならびに同人仲間に心より感謝します。これからも日々の暮らしを言葉でスケッチするように詩作していきたいです。
【著者略歴】
結婚を機に宇治市に在住26年。
2017年 枚方市サプリ村野NPOセンター 詩の講座(講師 詩人・画家井上良子)に参加。
2018年 詩の会Rosa創立に参加。
2020年 詩誌RosaとKernelの創刊に同人参加。以降、年2回発行に参加。
2021年 「詩集 とどのつまりがことんとん」
2022年 「詩集 ちゅうぶらりん」
同年 宇治民話を語る会かわせみに入会。民話を語るボランティアを始める。
「現代詩の魅力に溢れた作品」
「詩集 ちゅうぶらりん」には、身体が水玉を抱えていたり(「水風船」)、ネジや歯車でできていたり(「脱ぐ」)、床の上で溶けたり(「生クリーム」)など、不定形な「私」を表現した作品が多い。そんな「私」の中で「彼女」も同化して循環して欲しいのだが、未だ「ちゅうぶらりん」なままで地に足が着かない…。作者ならではの感覚で母を悼む思いが基調和音のように伝わる。一方で「私」を取り巻く風景は「ジオラマの街」のようで、「雪洞」みたいなガラス窓、籠からポップコーンになって弾ける「菜の花」、死者の対極のように「尽七日」に実るミニトマトなど、映像的で印象深い。こういった特色は、推敲の余地はあるものの現代詩の魅力に溢れたもので、作者の詩作活動や同賞への応募実績も踏まえつつ期待を込めて奨励賞とした。