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宇治市議会(行政視察報告 令和5年度) 6
文教・福祉常任委員会の行政視察報告
年月日:令和6年1月15日(月曜日)~1月16日(火曜日)
視察先:上尾市(埼玉県)、宇都宮市(栃木県)
出席委員:木本委員長、今川副委員長、真田、宮本、谷上、渡辺、西川(美)の各委員
上尾市(1月15日)
【調査項目】
子ども・子育て支援複合施設(AGECOCO)について
『市の概要』
- 市制施行:昭和33年7月15日
- 人口:23万41人(令和6年2月1日現在)
- 面積:45.51平方キロメートル
1.子ども・子育て支援複合施設(AGECOCO)について
(1)施設の概要について
保育所の老朽化、送迎バス乗車時間の長時間化、発達支援相談センターと児童発達支援センターの同一施設内での一貫した支援など、子育て関連施設が抱える諸問題を解決するため、保育所、発達支援相談センター及び児童発達支援センターを統合した新たな複合施設を整備する事業を構想し、平成31年度に基本設計、令和2年度に実施設計を経て工事に着手し、総工費は20億円で令和5年1月に工事が完了した。
(2)公立保育所の今後の運営方針について
上尾市には現在26人の待機児童がおり、この問題は解消されていない。
地域の実情や保育ニーズを十分に考慮しながら民間保育施設の誘致を含め、適正配置に努めていく予定である。その中で、公立保育所については、平成28年度を始期とする上尾市公共施設等総合管理計画に令和37年度までに、公立保育所を7施設程度へ統廃合すると定めている。なお、令和5年度4月1日現在で公立保育所は14施設ある。
(3)医療的ケア児の受入れの実態及び卒園後の進路について
AGECOCOは保育所、発達支援相談センター及び児童発達支援センターが併設されていることもあり、医療的ケア児を受け入れる保育所としては中心的な施設である。
現在、日常的に医療が必要な児童の受入れ状況は、市内の他の保育所に1人、AGECOCO内の児童発達支援センターに2人いる。
経管栄養及び吸引の医療的ケアについては看護師が対応しており、対応に当たっては担当看護師が児童の主治医から疾患やケアに関する注意事項を伺うとともに、保護者から体調等について丁寧な聞き取りを行い、一人一人の症状に合わせた対応を心がけている。
卒園後は、児童一人一人の発達を促すために最も適した進路を選択できるよう、市教育センターと連携を図り、支援に努めている。
(4)発達支援が必要な児童数について(令和4年度実績)
発達相談は992人の相談を電話や面接等で受けた。発達訓練・相談事業として、理学訓練・相談では乳幼児100人、小・中学生16人が利用した。作業訓練・相談では幼児92人、言語訓練・相談では幼児308人、心理相談では幼児199人、小学生22人が利用した。発達に不安や課題がある児童と親子を対象にした親子教室事業では10クラスを運営し、161人が入室した。児童発達支援センターには計63人の園児が在籍し、保育・療育を行った。
(5)受入れの定員について
AGECOCO移転後の児童発達支援センターの定員は70人で現在の在籍数は67人、保育所の定員は90人で現在の在籍数は75人である。
(6)運営に係る予算(人件費なども含む)ついて
令和5年度の発達支援相談センター運営費の予算額は、4億774万6,000円である。公立保育所運営費の予算額は、23億9,026万円で、公立保育所数14で単純に割った1園当たりの運営費の予算額は、1億7,073万3,000円である。
(7)言語聴覚士などの専門職の種類と人数について
児童発達支援センターで療育に当たる専門職と人数は、整形外科医1人、理学療法士2人、作業療法士1人、言語聴覚士1人、公認心理師2人である。
発達支援相談センターにおいて従事する専門職と人数は、理学療法士3人、作業療法士1人、言語聴覚士3人、公認心理師2人で、発達訓練・相談事業、保育所等訪問支援事業等において、継続して支援に当たっている。
(8)留意事項
令和5年度より開所し、このような複合施設は上尾市を入れて全国で2施設のみである。
子どもたちが交流を通じて多様性を認め合い、豊かな人間性が育まれることを目的として、施設の特徴を生かし、交流保育を行っている。交流保育では一緒に歌ったり、リズムで体を動かしたり、クリスマス会など季節の行事を一緒に工夫しながら行っている。さらに地域との交流イベントも開催している。
設備の特徴としては太陽光パネル、体温センター、光色切替、インクルーシブ教育、ミストシャワーを設置している。
他には月に1回、避難訓練を実施している。
(9)その他
委員からは、候補地はどのように選定したのかについて、施設における課題及び運営におけるリスク管理について、運営で工夫していることについて、保護者及び利用者からの声について、専門職員を含めた職員間の連携方法について、専門職員が施設内に在籍していることによる効果について、児童発達支援センターに入所する際の基準について、児童発達支援センターへの入所はどのように判断するのかについて、AGECOCOでは他の公立保育所の保育士も対象とした研修を行っているのかについて、専門職員の雇用体系及び配置基準について、保護者はどのようなきっかけで児童発達支援センターに入所を希望するのかについて、給食の調理は民間に委託しているのかについて、調理師はどのような関わり方をしているのかについて、給食のアレルギー対応について、保育所及び児童発達支援センターの児童が関わるようになったことで児童間ではどのような変化があったのかについて、地域住民との交流イベントの今後の予定について、総工費は補助金等を活用したのかについて、複合施設が完成したことで小学校教育とどのように連携され発達に課題がある児童がどう変化したのかについて、現場の職員の声について、複合施設の長所について、複合施設の建設は市長の判断だったのかについて、医療的ケア児の進学に対するサポートについて等の質疑がなされた。
「子ども・子育て支援複合施設(AGECOCO)内、視察の様子」
宇都宮市(1月16日)
【調査項目】
U@りんくすについて
『市の概要』
- 市制施行:明治29年4月1日
- 人口:512,957人(令和6年2月1日現在)
- 面積:416.85平方キロメートル
1.U@りんくすについて
(1)支援の概要について
学校や社会とつながりを持てずに家庭で多くの時間を過ごしている不登校児童・生徒が教育から取り残されないよう学びの機会を保障し、オンラインで支援を行っている。オンラインによるホームルーム、メタバース(仮想空間)でアバターを使用した交流、学習支援及び相談、体験活動などを行うことで、人とのつながりを実感しながら将来の社会的自立に向けた力を育む。
(2)実施に至るまでの経過について
コロナが落ち着いた現在でも学校でマスクを外している児童・生徒数は減っていないのが現状で、自信がなく、コミュニケーションに抵抗を感じている児童・生徒数は増加傾向にあり、今後、不登校の児童・生徒数が増えていくことを懸念している。このような状況下において、国も不登校の児童・生徒に対する考え方が変化してきており、将来学校に通わないという選択肢も認められる社会を迎える可能性があるとして、この課題にどう対応していくのかというのが起点である。
現在、不登校の児童・生徒の多くは学校の別室登校を行っており、学校に通えない児童・生徒は通所型の適応支援教室を利用している。このような児童・生徒は学びの機会が保障されている一方で、支援教室に通うことも困難な児童・生徒は支援を受けずに成長し、いざ社会に出ようと思っても今まで人と触れ合ったり、勉強してこなかったことが原因で様々な障壁に直面し、挫折を味わったり、進学や就職の困難さに直面してしまう恐れがある。この現状を鑑みて、デジタル適応支援教室が学びの機会を保障して、将来の社会的自立に向けて支援する体制を構築した。
宇都宮市が目指すデジタル適応支援教室の目標は先述のとおり、学びの機会を保障して、将来の社会的自立に向けて支援をしていくということであり、学校復帰を目標とはしていない。このような考えの下で支援を行っている。
(3)利用者数及び職員の人数について
62人の利用登録があるが、常時利用しているのは10人から15人程度で、現在は小・中学生が一緒に利用している。また62人全員が完全に不登校というわけではなく、U@りんくすを併用しながら週に何回か学校に通っている児童・生徒もおり、利用の制限はしていない。
職員は指導主事が1人、県費教員2人、スクールカウンセラー1人、ICT支援員1人の5人が在籍しているが、今後利用者が増えた場合、小学生と中学生を分けたメタバースを作成することも検討しているので、状況に応じて職員の増員を行う。
(4)利用者の卒業後の進路について
進路相談は会場及びオンラインの両方で実施している。実際に会場まで足を運んで直接話を聞いてみたい、質問してみたいという需要もあり、対象の児童・生徒の当日の体調や状況に応じて対応できるようにしている。
卒業後はアカウントに関しては中学3年生でなくなってしまう。しかし、進学した場合は学校に通えているのか、就職した場合は社会的に自立できているのかなど、卒業後の様子も把握し、その情報を基にさらに充実した支援につながりフィードバックが行えるよう、利用者が卒業した後もデジタル上で引き続き連絡が取れるような方法を検討している。
(5)メタバースにおいて今後実施していきたいことについて
メタバースでは学校や教室を想起させないような空間にしている。メタバース内ではビデオ会話、チャットが可能である。なお、チャットも苦手な人は絵文字などを使用して意思疎通ができるようにしている。また、自分が描いた絵や料理の写真などを他の利用者と共有できるようにする機能を設けるなど、様々な要素を取り入れている。これらを通じて自分は何に興味があり、将来何がしたいのかを考えるきっかけになるよう期待している。皆と共有できる活動を多く取り入れることで、つながりを感じてもらえるようにしている。
また自己決定を大切にしている。不登校の児童・生徒は自己肯定感が低い傾向があり、自己肯定感を高めていけるよう、全ての活動を自分で決定し、行動ができるようにしている。どのような活動ができるかなどの利用者に提供するものはデジタル適応支援教室で用意している。自分で決めて行動することで、自分でできたという喜びが体感できるよう努めている。
今後、利用者が増えた場合は小学生と中学生を分けたメタバースを作成することも検討している。
(6)大学、専門学校及びボランティアなどの連携の詳細について
多くの物事に出会って様々なことに興味を持ってほしいという思いがあるため、将来の仕事及び社会的自立につながるよう様々な体験活動を提供できるように努めている。その例として、働いている人の様子を生中継で配信してインタビューを可能としている。これまでの間、料理人、動物園の飼育員、和菓子作り、陶芸など、多くの人及び企業から協力を頂いている。
また、大学・専門学校とも連携して、デジタルアートを学んだり、ドローンを飛ばしている様子を提供するなど、学びの楽しさにも出会い、どういうことを勉強すれば自分が将来したいことにつながるのかを知ってもらうきっかけづくりになることを期待している。
(7)留意事項
学校長の判断で指導要録上の出席扱いとなるよう、児童・生徒の活動状況を学校と共有している。
4月当初は学校で不登校の児童・生徒に対して働きかけをしている時期なので、U@りんくすの利用を勧めるのは控えてほしいことを教育委員会から学校にお願いをした。4月から9月頃までは繰り返しメディアに露出し、その宣伝効果で保護者から直接申し込みがくるようにした。理由は従来の適応支援教室は通所までの段取りが多く、その段取りを大幅に省くことができることなどがあり、申請があれば学校と情報を共有している。10月からは学校でも広報を行っている。
現在、外に出なくても活躍できる人も存在し、リモートワークが広がりつつある状況下で、大人が発想を変えて、学校に行くことが必ずしも正しいという認識ではなく、学校に行って勉強する子もいる、学校に行かないで勉強する子もいてよい、学校に行かなくても将来社会的に自立して生活していくことが大事であるという認識もって鋭意支援に取り組んでいる。
(8)その他
委員からは、職員は常にログインしている状態なのかについて、利用者の情報をどのように職員間で共有しているのかについて、一人一人に応じた対応をしているのかについて、今後この支援を続けていくことでどのような効果があると見込んでいるのかについて、別室登校や適応支援教室に通っている児童・生徒はU@りんくすも利用した方がよいと考えているのかについて、直接会って会話ができずに文字だけのコミュニケーションがゆえに誤解を招いてしまったなどの弊害はあったのかについて、職員と利用者間または利用者間でトラブルが発生したときの対応について、保護者や教員などと面談をして利用登録を行うのかについて、アカウント名はどのように決めているのかについて、利用開始時は職員は利用者の情報を見ながら対応するのかについて、U@りんくすを完成させるまでの予算について、年間の予算について、補助金などを利用して運営しているのかについて、一人一台端末は自宅に持ち帰ることが可能なのかについて、利用者のほとんどは直接申込みをしに来た人なのかについて、ICTを活用して不登校支援を行うことで教職員の意識は変わってきているのかについて、利用者が卒業した後はどのように関わっていきたいと考えているのかについて、学校復帰ではなく将来の社会的自立を目標としているが教育委員会ではこの目標に関してどのような議論が展開されているのかについて、現場の教職員の声について、市内の各学校に配置している支援員は県の補助事業なのかについて等の質疑がなされた。
「U@りんくすを実際に使用している様子」