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【イベントレポート】平安の息吹を感じる 秋の特別公開
平安の息吹を感じる 秋の特別公開
宇治市内にある5つの寺院で、令和6年10月に「平安の息吹を感じる 秋の特別公開」が開催されました。今回の特別公開は、紫式部ゆかりのまちとして、宇治の歴史・文化・観光の魅力を発信する「紫式部ゆかりのまち宇治魅力発信プロジェクト」の1つでもあり、平安時代や鎌倉時代に作られた13体の珍しい仏像の特別公開です。一体どのような公開だったのかを、今回はレポートします。
まずは、JRや京阪の宇治駅周辺にある寺院からご紹介していきましょう。安養寺、放生院、惠心院の3つの寺院は、令和6年10月5日と6日の2日間、公開されました。
安養寺(あんようじ)は、450年の歴史を持つ浄土宗の寺院で、年に1回、秋に浄土宗の特別公開に参加されています。元々は天台宗の寺院でしたが、天文7年(1538)に念誉助心(ねんよじょしん)という僧が再興し、浄土宗に改められました。
公開されたのは、宇治市指定文化財である「木造阿弥陀如来坐像」や「木造地蔵菩薩立像」など。「木造阿弥陀如来坐像」は、10世紀の平安時代に檜材と見られる一材から彫出された仏像で、この時代の仏像は宇治市内でも少ないため、大変貴重なものだそうです。
「木造地蔵菩薩立像」は、平安末期から鎌倉初期の作で、平安時代の公卿・小野篁の手による像とも伝わるもの。地域住民からは“北向地蔵”や“延命地蔵”と呼ばれ、脚気に効験があると慕われていた仏像とのことです。
次は、宇治橋のたもとに立つ真言律宗の放生院(ほうじょういん)です。飛鳥時代に、聖徳太子の発願で秦河勝(はたのかわかつ)が建立した寺院であり、宇治橋を管理していたことから“橋寺”の通称でも知られています。
平成25年11月に特別公開して以来、11年ぶりに公開されたのは、鎌倉時代後期の「地蔵菩薩立像」(重要文化財)。高さ約190センチの寄木造りの仏像で、截金模様で装飾され、精巧な細工の円光背を背負い、「橋寺地蔵」とも呼ばれる美仏です。また、もう1体「木造不動明王立像」(重要文化財)は平安時代後期の作で、味わいのある顔つきの不動明王像も公開されました。
惠心院(えしんいん)は、弘法大師空海が開基と伝わる古刹です。後に、『源氏物語』宇治十帖でヒロインの浮舟を助ける横川の僧都のモデルになったと伝わる恵信僧都源信が再興し、現在は四季折々さまざまな花が咲く「花の寺」としても知られています。
11年ぶりの公開となった「木造十一面観音立像」(宇治市指定文化財)は、平安時代後期の作と伝わる寺のご本尊。非常に美しい木目と脇を締めた体形、衣文数が少ない簡素な表現が特徴です。京都府暫定登録文化財である「木造阿弥陀如来立像」と共に公開されました。
令和6年10月12日・13日には、JRや京阪の黄檗駅周辺にある西導寺、蔵林寺(12日のみ)の2寺院の特別公開が行われました。
西導寺(さいどうじ)は、室町時代に戦死した武士である夫の冥福を祈るために夫人が庵室を建立したのがはじまりと伝わります。江戸時代の慶長10年(1605)、円誉上人が寺として再興し、江戸中期に現在地に移って西導寺と号しました。現在は浄土宗の寺院です。
今回のような仏像の特別公開への参加は初めてだそうで、平安時代に作られた貴重な3体の仏像が公開されました。
女性的な優雅さにあふれた「木造薬師如来坐像」(重要文化財)、各部の精巧な彫刻技の表現が見事な「木造毘沙門天立像」(重要文化財)、精緻な彫法と目鼻が中央に集まった面貌が特徴的な「木造毘沙門天立像」(宇治市指定文化財)を見に、多くの拝観客がお寺を訪れました。
蔵林寺(ぞうりんじ)は、寺伝によると、寛和2年(986)に恵信僧都源信が開創したと伝わる浄土宗の古刹です。境内にそびえ立つ樹齢約600年の御神木で、宇治市名木百選にも選定されているムクノキでも知られています。
こちらでは、宇治市指定文化財である4体の仏像で、いずれも平安後期から末期の作である「木造薬師如来坐像」「木造阿弥陀如来坐像」「木造毘沙門天立像」「木造地蔵菩薩立像」が公開されました。特に、蔵林寺のご本尊でもある「木造阿弥陀如来坐像」は、細くしなやかな姿と穏やかなお顔でとても優美な阿弥陀如来像です。
さいごに
今回の目玉となった13体の仏像以外にも、それぞれの寺院が所有する希少な仏像や寺宝を見ることができる貴重な機会となりました。
多くの拝観客が現地を訪れ、知られざる宇治の文化遺産に触れた4日間の特別公開。今回来られた方も、来られなかった方も、また次に開催される宇治を舞台にした特別公開を楽しみに待っていてくださいね。