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【イベントレポート】第33回紫式部文学賞・紫式部市民文化賞贈呈式

更新日:2024年2月16日更新 印刷ページ表示

​『イコ トラベリング1948-』の作者・角野栄子さんが第33回紫式部文学賞を受賞!​

​ 女性作家が手がけた優れた作品を対象とする「紫式部文学賞」と市民による文学作品や歴史・民族などの研究作品を対象とした「紫式部市民文化賞」の贈呈式並びに受賞者講演会が令和5年11月に行われました。贈呈式当日の様子と、『イコ トラベリング 1948-』で紫式部文学賞を受賞した児童文学作家・角野栄子さんのインタビューをお届けします。

紫式部像
(宇治橋西詰の紫式部像)

  平成2年に創設した「紫式部文学賞」と「紫式部市民文化賞」は、宇治市の「ふるさと創生事業」として、市民のアイデアから誕生した賞です。『源氏物語』をはじめとする歴史文化都市・宇治のイメージを全国に発信するとともに、市民が文学に親しみ、豊かな文化を育んでいけるように、との願いが込められています。

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市ホームページURL:紫式部文学賞・紫式部市民文化賞

 

イベントの写真1

 今年で33回目を迎えた紫式部文学賞・紫式部市民文化賞の贈呈式を、令和5年11月18日(土曜日)に、宇治市文化会館 大ホールで開催しました。

  壇上には、紫式部文学賞の選考委員長を務めた鈴木貞美さん(文芸評論家、国際日本文化研究センター名誉教授)、紫式部市民文化賞の選考委員長を務めた山路興造さん(元京都市歴史資料館長)をはじめ、松村淳子宇治市長、木上晴之宇治市教育委員会教育長などが出席。

 

イベントの写真2

 紫式部文学賞を受賞された角野栄子さんには、宇治市より正賞のクリスタル像と副賞(賞金100万円)を贈呈しました。

 角野栄子さんは、映画や舞台などでも好評を博した『魔女の宅急便』で知られる児童文学作家です。受賞作の『イコ トラベリング 1948-』は、国際的に活躍してきた著者の若き日の自叙伝。東京の下町で育った少女「イコ」が、第二次世界大戦を乗り越え、大学を卒業後、海外の書籍を扱う書店に就職し、ブラジルに旅立つまでを軽やかなタッチで描いた作品です。

  イベントの写真3

ⒸKADOKAWA

 選考委員長を務めた鈴木貞美さんは講評で「連合軍の占領下、自由に目覚めてゆく少女時代。中学で英語を習いはじめて、現在進行形に出会った驚きが全編に弾む」と講評。選考委員の村田喜代子さん(小説家)は  「先年まで使用禁止だった敵国語がペラペラの中学教師。ずるい!ずるい!と言いつつ自分たちも占領国アメリカに憧れ、イコは「キャロル」、女友達は「クララ」男友達は「チャールズ」と呼び合って喜んだ。こんな開けっぴろげの戦後史は読んだことがない。主人公が少女で、そしてこの性格、独立精神ゆえにこそ、二十二歳で単身ブラジルへ出奔するラストまで、一気に読了させられた」と激賞しています。

イベントの写真4

Cap:(上段左より)紫式部市民文化賞を受賞した片桐望さん、岡田一敏さん(下段左より)奨励賞を受賞した『風のクレヨン』さん、『わいわいTRY塾』さん、ユース賞を受賞した稲田知恵さん

 紫式部市民文化賞は、市内外の31個人、5団体から36件の応募がありました。

 紫式部市民文化賞を受賞した片桐望さんの随筆『宇治でのよしなしごと』は、関心の向くままに市内各地を巡って写真と素朴な文章でつづった散策記録です。同じく同賞を受賞した岡田一敏さんの研究『クイズで紡ぐ宇治の今昔400問』は、市民生活や歴史、文化、お茶、源氏物語といった、宇治にまつわる多種多様なテーマをクイズ形式で紹介しています。

 昨年度に創設された奨励賞は、2つの団体が選ばれました。宇治や城陽、京都の市民のみなさんがまとめた童話同人集『風のクレヨン』(15号)は、ファンタジーや再生の物語、美しいものと出会う感動を描いた作品など、作家ごとの個性が光り輝いています。

 「生涯学習ボランティア養成講座」を修了した市民の皆さんらによるグループ「わいわいTRY塾」の「人生を豊かに~様々な体験談からのメッセージ」は、宇治ゆかりの源氏物語をテーマに、登場人物の生きざまから生きる知恵のメッセージを読み解く講演集です。

 また、今回ユース賞に選ばれた稲田知恵さんの『乙女の憂鬱』は、人間と動物の交歓を描いた微笑ましい作品です。

 

イベントの写真5

 贈呈式に続いて、紫式部文学賞を受賞した角野栄子さんの受賞者講演会「ちいさな話のおおきな世界」を開催しました。講演では「私は紫式部のようなラブストーリーを書いていない私が、このような賞をいただいて少し不思議な気持ちでいます」と受賞の気持ちを述べられたあと、20代半ばでブラジルに渡った際に出会った少年から身振り手振りや感情を通じて単語を学んだことを例えに、言葉の持つ不思議について体験したことなどを話されました。

 ​角野さんには、講演前にお話を伺う機会をいただきました。

角野さんお写真2
©Eiko Kadono Office

――紫式部文学賞受賞、おめでとうございます。改めて受賞の話を聞いたときのお気持ちはいかがだったでしょうか。

角野さん:率直に「えっ、私でいいの?」と思いました。というのも、私はこれまで児童文学の作品を書き続けてきたものですから。紫式部のようなラブストーリーは書いてこなかったので、驚きが大きかったですね。

 

――宇治に対してどんな印象をお持ちでしょうか。

角野さん:京都は若い頃から大好きで、学生時代からよく来ていたんです。なかでもお寺が好きで、平等院鳳凰堂にも3回訪れました。本当に素晴らしかったことを今でもよく覚えています。

 

――今回、紫式部文学賞を受賞した『イコ トラベリング 1948-』を書くきっかけについてお聞かせください。

角野さん:以前、戦時中に疎開した9歳のイコの物語『トンネルの森 1945』を書いたものですから、戦後、イコがどう生きたかということも書きたいという気持ちがありました。

 ​それに私が戦争を体験した子ども時代は、窮屈で食べるものもなくて大変だったけど、理不尽な出来事に遭っているとは感じませんでした。周りの大人も含めて「日本は勝つと信じたい」という気持ちが強かったんだと思います。でも、戦争が終わってみると、それまでの窮屈さから解放されたことが強く印象に残っているんです。外国から様々な文化が入ってきて、吸収していったのが私たちの世代。ですから、私は等身大の自分が経験したことや悩んだことを素直に書くことを大事にしました。

 

――確かに読ませていただくと、戦後を生きた少女の姿がまざまざと見えてきます。それでありながら、やはりあの時代は混沌としていて、不自由なことはもちろん多かったのですが、前向きに歩くイコの姿がとても印象的でした。

角野さん:新しい考えに触れて、新しい世界を作るんだという気持ちは、大きな希望につながりましたね。戦争が終わって、これからどうなるかという気持ちがありましたけれど、一方で、自分たちがこれからの時代をつくっていくという、大きな希望はあったと思います。生活は苦しくとも「これから始まる」という前向きな気持ちは、物語にも反映させています。

 

――角野さんが過ごした戦後の少女時代と、今の子どもたちが生きる時代と比べて、感じることはありますか?

角野さん:私たちの子どもの頃はなんでも見つけて面白がって、それから考えたり、工夫して作ったりしたけど、今の子どもたちは、そういう「散歩のようなこと」があまりないような感じがします。スケジュールが決まっていて、学校に行くにも寄り道できないでしょ。それはかわいそうに思うのね。今の世の中の流れだから仕方ない部分はあると思うからこそ、色々な世界に触れられる本を読んでほしいですね。ページをめくれば、いろいろな寄り道ができる。そんな楽しさは、本のなかにこそあるし、新しいことに触れて心が動くということはとても大事だと思うんです。

 

――現実世界ではなく本のなかで

角野さん:そう、本の中だからこそ遊ぶことができる。本から影響を受けて、絵を描きたくなったり、物語を書きたくなったり……。そんな行先を決めない散歩のようなことを、読書を通じて体験してほしいですね。

 

 ​今回の受賞作は、宇治市内の図書館をはじめ、市内一部の公共施設にも設置しています。これを機会にぜひ手に取って読んでみてはいかがでしょうか。


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