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第28回紫式部文学賞 『えぴすとれー』

[2019年9月5日]

第28回紫式部文学賞

受賞作品: 『えぴすとれー』

著   者: 水原 紫苑 (みずはら しおん) さん

作品紹介と講評(鈴木 貞美 選考委員長)

 2018年の紫式部文学賞は、水原紫苑さんの歌集『えぴすとれー』にさしあげます。水原紫苑さんは、枕詞、掛詞、縁語、見立て、音の効果などにも気を配る伝統技法と『万葉集』などの古語を駆使した歌風で、すでにいくつもの賞を受けてきましたが、この第十二歌集は、一段と題材と想像力の幅をひろげて、今日の短歌界で一人、天を行くかの感があります。近代短歌が昭和に入るころから、身辺の些事にふれてうたうものと相場が決まり、最近では、「親しみやすさ」を競いあう風潮に染まっているかのようですが、優れた歌人たちは常に新たな歌ぶりを開くことを志してきました。

 水原紫苑さんは、伝統技法を自在に用い、むしろ古語のもつ意外な一面を引き出しています。ごくわかりやすい例をあげれば、「みどりごの血汐」で赤ん坊の血ということばの意味をよそに、緑と赤の色彩の対比が浮き立つ類。見立てや想像は雅語の範囲を遥かに超えて、ギリシャ神話やシェイクスピアやニーチェの哲学、宇宙のビッグ・バン仮説などなど多彩に拡がり、イチローもゴキブリまで登場します。無邪気なうた、近親者の思い出などから、最近の世相を鋭くえぐるうたも少なくありません。たった31文字から立ち昇る世界が、これほど豊かさをもちうるものかと感心させられることしきり。奔放な想像力や観念の遊戯のように感じられるうたも、実景・実感に立ち、瞬間的・即興的な連想、意想外の逆説をふくむ自分の想像力のはたらきをよく自覚し、よく錬って言い留める言葉の芸(わざ)、「うた」の本道を外れていません。歌群の配列にも工夫が認められます。

 この歌集の「あとがき」は、次のように閉じています。

 〈えぴすとれー〉は「手紙」の意味のギリシャ語で、歌は、存在非在のすべてに送る手紙でありたいと希(ねが)つて居ります。

 

受賞の言葉

 このたびは、思いもよらず大きな賞をいただくことになって、夢のようです。

 紫式部という世界文学の巨大な作家の名の賞を、短歌によっていただけることにも特別な感慨を覚えます。

 歌集出版のあと、なかなか歌が作れずにおりましたが、このありがたい機会をきっかけとして、次の一歩が踏み出せたらと思っております。

 数えで還暦を迎えましたが、自分にとって生きることは書くことだと実感いたします。

 生きる希望を与えて下さった皆様方、本当にありがとうございます。

 そして、少女時代から源氏物語に憧れて来た者として、紫式部に改めて感謝の念を送ります。

著者略歴

 1959年、横浜市に生まれる。現在も在住。早稲田大学仏文修士課程修了。春日井建に師事。歌集に『びあんか』(現代歌人協会賞)、『あかるたへ』(若山牧水賞、山本健吉文学賞)など。エッセイに『桜は本当に美しいのか』、小説に『あくがれ―わが和泉式部』など。

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